被相続人が随分前に死亡している場合の遺産分割について
被相続人に遺産として不動産その他の財産がありながら、遺産分割を行わないまま随分時間が経過してしまっている場合に、遺産分割を行う際の注意点を説明していきます。
相続人の特定
被相続人の死亡から随分と時間が経過している場合、相続人も死亡し、二次相続が発生していることが多くあります。その場合でも、被相続人が出生してから死亡するまでの戸籍を全て洗い出すことが必要となります。
被相続人に配偶者及び子供がいる場合には、兄弟姉妹まで調査する必要はありませんが、子供がいない場合には、兄弟姉妹やその子(甥・姪)まで全て調査しなければならないこともあります。
また、相続人が高齢であるケースでは、認知症等に罹患しているため、直ちに遺産分割の当事者として扱えないこともあります。
さらに、相続人の中に行方不明の者がいる場合には、遺産分割の当事者として、不在者財産管理人選任の申立てが必要になることがあり、また、不在者の死亡を確定させるため、家庭裁判所の失踪宣告の申立て制度を利用することも検討します。
相続財産の調査
被相続人が死亡してから随分時間が経過しているにもかかわらず、遺産分割が未了であった場合、遺産は不動産しかなかったということが多いのではないかと思います。仮に預貯金の存在する可能性があったとしても、どこの金融機関にあるのか分からないケースも多いと思われます。万一、通帳が見つかった場合には、金融機関に問い合わせて残高を調査する必要があります。理論的には、民法が定める消滅時効期間が経過している場合もありますが、金融機関は時効を援用しないことが通常ですので、消滅時効期間が経過しているからといって諦めずに調査した方が良いと考えられます。
特別受益・寄与分
通常の遺産分割では、特別受益や寄与分の問題が生じ得ます。特別受益とは、共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、原則として法定相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とするものです(民法903条1項)。寄与分とは、共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、原則として法定相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とするものです(民法904条の2)。
しかし、相続開始の時から10年を経過した後にする遺産分割については、原則として、この特別受益や寄与分は適用されません(民法904条の3)。
したがって、被相続人の死亡から10年以上経過した後に遺産分割を行う場合には、通常であれば、法定相続分の割合が基準となり、特別受益・寄与分による修正はされないことになります。
遺産共有持分と他の共有持分が併存している場合について
共有物の全部又はその持分が相続財産に属する場合において、共同相続人間で当該共有物の全部又はその持分について遺産分割をすべきときは、当該共有物又はその持分について共有物分割請求はできず、まずは遺産分割を行う必要があります(民法258条の2第1項)。具体的には、ある土地について、もともとAとBで2分の1ずつ共有しており、Bが死亡して、Bの子であるCとDが相続する場合、法定相続分はそれぞれ2分の1ですから、CとDは土地の共有持分を4分の1ずつ有することになります。しかし、CとDの共有は、土地の2分の1の持分について遺産共有している状態なので、共有状態の解消のためにいきなり土地全部についての共有物分割請求をすることはできず、まずは、土地の2分の1の持分について遺産分割をしなければならないことになります。
しかし、共有物の持分が相続財産に属する場合において、相続開始の時から10年を経過したときは、相続財産に関する共有物の持分について共有物分割請求をすることができます(民法258条の2第2項)。前述の例で、Bが死亡してから10年を経過したときは、CとDで遺産分割を行う必要がなく、共有物分割請求を行うことができるということになります。
ただし、当該共有物の持分について遺産分割の請求があり、かつ、相続人が共有物分割請求を行うことについて異議の申出をしたときは、遺産共有部分について、共有物分割請求で処理することはできません(民法258条の2第2項ただし書)。
もっとも、令和3年民法改正前の最高裁判決では、共有物について、遺産共有持分と他の共有持分とが併存する場合、共有関係の解消を求める裁判上の手続は共有物分割請求訴訟であり、共有物分割の判決によって遺産共有持分を有していた者に分与された財産は遺産分割の対象となるところ、共有物分割請求訴訟において、価格賠償による分割の判決がされたときは、賠償金の支払いを受けた者は、遺産分割がされるまでの間これを保管する義務を負うが、裁判所は、その判決において、保管すべき賠償金の範囲を定めた上で、各自の保管すべき範囲に応じた額の賠償金を支払うことを命ずることができる旨判示しており(最判平成25年11月29日民集67巻8号1736頁)、令和3年民法改正後においても、このような処理は可能であると解されています(村松秀樹、大谷太編著『Q&A令和3年改正民法・改正不登法・相続土地国庫帰属法』一般社団法人金融財政事情研究会114頁)。
遺産分割を行わないまま時が経過してしまっている方へ
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不動産をどのように分けるか,現物を取得しない当事者が代償金をいくらもらうべきかを検討していきます。
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